赤坂在住の夫婦と娘と赤ちゃんによる日記と地元情報。 食事、映画、読書にアート、何でもありのブログです。 第二子誕生しました!


by yesquire
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New York Times Book Reviewが選んだ過去25年の最高のフィクションにボーダー三部作と共にノミネートされていたのがCormac McCarthy(コーマック・マッカーシー)の『ブラッド・メリディアン』。 荒野、殺戮、掟、酒場、自然、拳銃、メキシコと頭皮狩りを会話のない研ぎ澄まされた言葉で語った作品は、『ザ・ロード』で究極の形となった作者独特の期待や倫理観を突き放す文章のいわば原石でかえって印象を深くした感があります。
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主人公の少年は判事と言われる大男と出会い、領土拡大時代の西部でインディアン討伐隊に加わり、殺戮、祝福と彷徨を経験。 当然死の直前まで追い込まれますが、途中でその存在も薄れる程の頭皮狩りの行程が描かれ、西部劇がソフトに見えてしまう荒々しさと無残さを幾度となく少ない言葉で語る章があります。

他作品で映画がヒットしたのでやっと出版されたようですが、この小説を映像にするのはちょっと想像できません。 ちなみに過去25年のベストノベルはToni Morrison(トニ・モリソン)の『ビラブド』で、個人的に最高傑作と評価しているドン・デリーロの『ホワイト・ノイズ』が2番手。 でその下に本作は並べられていました。
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by yesquire | 2010-02-09 22:01 | book
ギリシャ、スコットランドにマンハッタンと島が舞台の長編小説『六月の組曲』は原題(「Three Junes」)の通り3つの異なる年の6月を異なる主人公が語るフィクション。 犬の調教で名をはせた妻に先立たれた新聞社経営のスコティッシュが忘れるためにギリシャを旅する第一部は、アメリカ人の若い女性画家との出会いで期待が膨らむちょうどその時にあっさり終了。 部の後半に距離も心も離れてしまった長男の話が出てきますが、その彼が第二部の主人公となりエイズや父親の死に直面するどちらかというと頑固でとっつきにくいゲイのNYでの生活と葬式で再開する家族の話にシフトします。 不妊症の弟家族の問題、死に近づくシニカルな音楽評論家のパートナー、衝動的に出会い魅かれていくジゴロのような男など周囲の状況は好転するでもなく、むしろ彼が自分の世界を守ることで無機質な存在となっている状況が淡々と描かれています。
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気になる第三部の主人公はなんと写真家のジゴロに惹きつけられた女性画家。 愛してもない夫を事故で失い新たな恋人の子を身ごもる彼女は第1部で老人がギリシャで出会った彼女のその後であり、アメリカでのパーティで長男と接点を持つところでもう一度物語は盛り上がりを見せます。 「あなたの父親知っているわ」という展開には期待通りなりませんが、恋人に妊娠を打ち明けていない女性と堅物のゲイの書店経営者が車の中で語る最後のシーンには感動します。

死と生、静と動と書くと単純すぎる様々な事象が語られるジュリア・グラスの秀作は、エイズ患者の赤裸々な状態が詳細なのでもうちょっと古いのかと思えば2002年の作品でした。 せっかくメジャーな現代小説を取り上げたのだから、DHCも化粧品ではなく社名の通り翻訳にも継続的に力を入れてほしいです。
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by yesquire | 2009-11-06 21:39 | book
マリリン・モンローの生涯を描いたジョイス・キャロル・オーツの長編フィクションが『ブロンド』。巻頭で著者が「フィクションという形を借りて「人生」を徹底的に蒸留したもの」と述べているようにセックスシンボルの一生を詳細に描写しているが、「実在のマリリン・モンローの残した詩から2行だけ引用した」りで「彼女の伝記的な事実を本書に求めるのは筋違い」な完全なフィクション。
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ハリウッドの落伍者である母親との貧困な生活と長い孤児院時代から始まるノーマ・ジーンの自伝は暗く不幸で、我々が知るマリリン・モンローの華やかなハリウッドのイメージと対照的です。 詩を愛す献身的で純粋な少女は里親や教師に気に入られようとしますが、目立つ彼女の外見が知らず知らずのうちに大人を惹き寄せ、セクシャルな女としての一面を早くも発揮。 田舎町での早い結婚と献身的かつ愛情に飢えた彼女の生活は大戦のピンナップガールに登用されることで一気に展開することに。

セクシーな雑誌のモデルからハリウッド映画のデビューはトントン拍子で進み、エージェントとの関係や業界の中で揉まれる絶世の大人の美貌を持つ少女は、辱められ、傷つきながらも成功への道を静かに歩んでゆきます。 美人でグラマラスなだけで中身のないブロンドの代表みたいなイメージに対し、現代アメリカ文学界の女王は演技を真剣に学ぶ勉強熱心で向上心のあるアイコンの姿を悲壮に描写。 セレブ達との乱れた関係、大リーガーや劇作家との結婚生活の根底には捨てられた父親への求愛とコンプレックスがあり、付きまとう女性にしか理解できない生理現象と刹那的な精神病を持つスターの人生は最後まで過酷なまま終わります。

ジョイス・キャロル・オーツは女性を主人公にした小説でそのパワーを発揮する気がします。 多作な彼女の作品が今回のような上手い翻訳で今後も出版されるといいなと思いました。
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by yesquire | 2009-10-24 17:28 | book
アップダイクによるアフリカの仮想の国を舞台にしたドラマが『クーデタ』
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前王をクーデタで葬り去った大佐が君臨し統治した国クシュと留学先のアメリカでの生活や去就を自ら語るフィクションは、南米を舞台にしたガルシア=マルケス作品のアップダイクヴァージョン。 1978年に発表された本作では主人公エレルーや他の登場人物にも教養があり、舞台がアフリカでも巨匠の本領が発揮される場面は多くあります。

翻訳の池澤夏樹は大統領の羨望である先進国の商品名をそのまま(Coca Cola、Kelloggなど)英字で表記しており、コーランの引用と供に知られざる国のリアリティを増幅させます。 不毛の大地にもロシアの基地があり、アメリカは救援物資を押し付け、統治者はベンツを乗り回して国をまわる。 資本主義の洗礼を受けたがそれを否定する大統領は敬愛する王を処刑し、その亡霊に怯えながら身分を隠して自らの土地をさまよい、数ある愛人宅を訪れ、最後に資本主義の象徴である最新の石油精製所においてその身を貶めることに。 ラテンアメリカの作家と違い絶望や暴力ではなく、権力や独裁と物質主義の国での生活が描かれるのはある意味現代のおとぎ話とも言え、アップダイク流のエマージングカントリー物は十分読み応えのある小説でした。
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by yesquire | 2009-10-16 22:50 | book
21世紀に起きた中国との戦争後のボストンが舞台の近未来小説がアップダイクの『終焉』。 合衆国政府は無能、通貨ドルは通用せず、人々は経済的繁栄を夢見てメキシコへ脱出する以外はあまり現代と変化のない世界で、主人公の元投資銀行家(97年のこの時点では裕福な設定)の日々の生活が描かれています。
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主人公の独白で語られる物語には野生の鹿、売春婦、80年代と勘違いしているようなエネルギッシュな妻、まともな子供達と用心棒くらいしか登場しません。 アップダイクはそれでも戦後の緊張を投げてきますますが、四季の移り変わりを細かく庭の植物で描写したり、60歳代の主人公が興味を持つ分子の世界を深く語らせ読者を逃がしてくれます。 また、ガルシア‐マルケスと似ているけどアメリカらしい老いた体と性について淡々と展開する場面もあり、出版社は「SF」とアホらしい言葉を使っていますが非常に現実的な内容となっています。 

そもそも孫に会った帰りに勤めていた会社に立ち寄り、鹿を処分するために業者を雇ったり、雪の朝のフェデックスのタイヤの跡や売春婦とのやりとりなど「SF(サイエンスフィクション)」と言うよりは「SF(ストレート・フィクション)」と言った方が合うようです。 病に冒された身体でお気に入りの売春婦を哀れに探す老人、庭の草木で四季を感じながら義理の娘とのセクシャルな関係を想像する父親。 廃頽的な文章も、戦後というよりはアップダイクらしい老いと性のとらえ方を上手く表現していると思われます。 最後に撃たれた鹿が運ばれるシーンは読んでいてゾクゾクしてしまいました。
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by yesquire | 2009-07-12 14:31 | book
寡作、皮肉屋で女好きのユダヤ人重鎮作家ヘンリー・ベックのロシア東欧紀行とマリファナ体験をまとめた本が『ベック氏の奇妙な旅と女性遍歴』。 アッダイクの流れるような文章が丁寧に翻訳されており、語りかける様々な内容、すなわち美術、文壇・版元批判、この本が出版された1970年では遠かった東側の情景と女性の描写が見事に表現されています。
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個人的には上品で落ち着いたアップダイク作品が好きですが、主人公ベックは何となくせわしなくテキトー、常に批判的で愛人との会話でさえヒネクレで成立しません。 しかし南部の女子大学での講演でパニックに陥り、イギリスでは若い記者のインタビューで翻弄され、ブルガリアの女詩人に恋するなど意外にピュアな面もある可愛いおじさんでもあります。 最終章の「天国へ入る」ではあちら側で希代の文豪にアカデミーに迎えられるベック氏が描かれ、何となくいい終わり方で何故かほっとしました。
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by yesquire | 2009-05-25 22:40 | book
ドン・デリーロの『墜ちてゆく男』では40前の弁護士が9月11日貿易センタービルから「頭から爪先まで灰色の煤みたい」で「顔も服も血まみれ」になりながら前妻の玄関に現れます。持っていた他人のブリーフケースは同じくビルにいた黒人女性のもので、非常階段での経験を分かち合う深い関係に進展。 老齢で自殺した父親を持つ前妻は朗読によるセラピーで老人達の9/11に触れ、母親とその恋人と宗教感を論じます。 友人を亡くした主人公は引きこもり、「他人とのあいだの航空マイル」のような空間的基準を身につけるように。 やがてよりを戻した二人の関係にも結末が訪れます。
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爆撃実行犯がビル突撃しそこから惨憺たるビルの現場に移り変わる場面はショッキングで見事な文章で語られ、小説全体にはデリーロ得意の乾いた雰囲気が9/11後の断絶された関係、緊張感と焦燥感を漂わせます。 ノンフィクションに近い小説として発表されてもおかしくなかったデリーロによる9/11は、現場の状況描写が最小限に抑えられ、美術商、鉛筆、ポーカーなどの小道具によって事件後の登場人物の生活が表現されます。

短い文章で描いたセンタービル内部の修羅場も壮絶でしたが、主人公の子供が他の子と内緒で部屋の窓から探していたビル・ロートンという人物が実はビン・ラディンだったという下りに戦慄を感じました。

現代のアメリカ人作家で一番好きなデリーロの9/11題材の作品はまた時間のある時に再読したい1冊です。
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by yesquire | 2009-04-29 22:30 | book
現存するアメリカの作家で最も尊敬するドン・デリーロの80年代に書かれた作品が、リー・ハーヴェイ・オズワルドの物語をフィクションで仕立てた『リブラ 時の秤』。 宗教やもちろん彼の場合人種がJFK暗殺を思い出させる若い大統領が就任したので読んでみました。 事件に関与した組織にオズワルドが巻き込まれる過程と、家族やジャック・ルビーなど間接的に彼と関わる人物の詳細な描写は歴史書を読んでいる、あるいはドキュメンタリーの映画を観ているような錯覚を感じます。
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幼い時からいじめられっ子で、共産主義に目覚めてソ連に亡命、帰国しても生活は苦しく家庭を省みずに社会活動にのめり込んでいく主人公の姿を想像される感情や会話で表現するデリーロの冷徹で容赦しない文章が重く圧し掛かります。 大統領に恨みがあるわけでもなく、暗殺の計画すら考えていなかったオズワルドが熱に冒されたように壮大な策略の一部になる後半に向け、元CIAのエージェントや資料を整理する政府関係者などのサブストーリーが絶妙にからみ進行します。 暗殺、逮捕、オズワルドの葬儀で母親が語る心中へと最後に文章が加速すると同時に重苦しさも増す構成。 JFK暗殺という大きな事件を犯人の側面から描いた作品ですが、悲劇的な大げささを排除して第三者的な視線から捉えた作家の技量は恐ろしいと思いました。
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by yesquire | 2009-04-16 23:36 | book
カバーが原作とほとんど同じだったベテラン現代作家ジュディ・ピコーの『偽りをかさねて』は、漫画家とダンテ専門の教授夫妻とその娘の周辺に起こるショッキングな物語。 心に響く作品というよりは、事件が起きて葛藤、過去、関係や感情が大きく変化する推理小説のようでした。
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ある意味最後が気になる作品はアラスカ出身で過去を断ち切った在宅勤務の父と、生徒と不倫し家庭を省みない母を持つ娘がレイプされ自殺未遂を起こすことで始まります。 問題を抱え家庭はほぼ崩壊し、娘や妻の嘘をマンガにぶつけながら過去と対峙するのが主人公ですが、話がどんどん展開するのでその心理や感情を深く追っていく時間がありません。 アラスカへ逃亡した娘を追っていく後半は長く感じられたものの、殺人事件の真犯人と映画のようにあっという間に追いついた刑事の登場に驚かされた娯楽作品。 途中で挿入される神曲のマンガヴァージョンもちょっとわざとらしい気がしました。 
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by yesquire | 2009-01-12 21:25 | book
スティーリーダンの計算された乱れないメロディが聞こえてきたチャールズ・バクスターの長編デビュー作が『初めの光が』
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ミシガンの兄妹の物語が章ごとに過去へ戻る構成、最後は幼い子供時代までさかのぼります。 ハンサムなカーディーラーの兄は高校のアイスホッケーのスター、天才児だった妹は物理学者になって不倫で出産。 全く違う環境に生活し家族を持つ二人のそれまでの日常がごく平凡に語られるのですが、何故か心配にもなり、先が読みたくなる小説でした。

動物園のライオンを「用心深く、知的ではあるが、無慈悲でもある。旅慣れた老夫人の顔だ」と表現するなど小説家たる才能が所々に光る作品でもありますが、物理や核実験の知識、ディーラーの仕事などどこで手に入れたんだと思わせる知的なディテールも見逃せません。

オープンしたばかりなのに料理も居心地も良いレストランのような佳作に今後の和訳刊行の期待が高まります。
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by yesquire | 2008-09-23 23:08 | book