赤坂在住の夫婦と娘と赤ちゃんによる日記と地元情報。 食事、映画、読書にアート、何でもありのブログです。 第二子誕生しました!


by yesquire
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タグ:ノンフィクション ( 7 ) タグの人気記事

ガルシア=マルケスの自伝『生きて、語り伝える』は幻想的かつ現実的な彼の小説にも似て大変興味をそそる半生記。 日本の文学大家と同じように進学しても勉強せず将来のベストセラー作家を夢みて中途半端な生活を送り、様々な経験をして小説家としての肉付きを増やしていく過程は(当時のコロンビア情勢が不勉強でも)面白く、特に母親を中心としたファミリーの奇人や伝説は名作の背景が見え隠れして楽しいノンフィクションとなっています。
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新聞記者としてヨーロッパへ渡る直前で今回は終了しますが、その経験を生かしたドキュメンタリー風の半生の語りは見事としか言いようがなく、自伝をこれほど読み応えある作品に仕上げたマルケスの技量には大きく感心。 執筆ばかりと思えばちゃっかり女性も(危機一髪の時もありますが)モノにし、意外ですが中南米の音楽に造詣の深い面を見せたり、人生の中で過ぎ去って行った人の名前や表情などを詳細に記憶している部分には驚かされます。 政変が起きたコロンビアでの「この世でいちばんいい職業」で「高く評価しているルポルタージュ」のお手本のような緊張感のあるパートや、父親の期待を裏切りその事実を現実的かつ芯の強い母親と分かち合う両親との関係や大勢の兄妹を振り返るノスタルジックな文章などマルケスの様々な一面が凝縮され続編が大変待ち遠しい一冊でした。
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by yesquire | 2010-03-11 22:46 | book
『ザ・フィフティーズ』は15年前にハルバースタムが書いた50年代についてのノンフィクション大作。 文庫で出版の時の帯に「9/11後のアメリカは?」とありますが、それは間違いで、今読んでも50年代のアメリカの影響を考えさせられる秀作でした。
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政治だけでなくビジネスやカルチャーなど大きな範囲でその時代を捉えるために各章で一人あるいはひとつの事象を取り上げる構成。 3冊に及ぶ長編ですが、あれもこれも50年代だったのだと意外な発見もある内容でした。 ピルの発明、ホリデーインの設立、小説ペイトンプレイスやリトルロックの8人などは詳しくなかったので面白かったし、レビットタウンやマーロン・ブランド、自動車産業についてはより知識が深まりました。 

コラムニストらしくハルバースタムは新聞からTVへメディアの主役が移行する事実を様々な事象における影響で検証しています。 選挙やプレスリー、公民権運動から広告業界まで、有名なニクソンとケネディのTV討論で締めくくる最後も納得。 優秀なジャーナリストの突然の悲報からも2年、時が経つのは早いものです。
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by yesquire | 2009-03-28 11:35 | book
最近読んだ南米の作家達の秀作はすべてノンフィクションばかりです。 『楽園への道』は理想を追及し自らを犠牲にして労働者運動を行うフローラと、その孫であり芸術を異国に求めてさまようゴーギャンの物語。
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労働者を団結させようと孤軍奮闘している祖母の姿は女性への偏見や労働組織に対する無知と保守的な信仰が渦巻く1850年代のフランスにおいて全く絶望的で無謀に描かれます。 同じように安定と地位と家族を捨て南の島に移住した孫の乱れた生活と性病に侵された身体での芸術活動も自暴自棄かつ絶望的に語られます。祖母は若気の至りで嫁いだ後悔と夫からの逃亡、対比される孫は親友ゴッホへの裏切りと自殺に対する責任に行く先で付きまとわられ苦悩します。

題材に事欠かないからか特異な地理と歴史が理由か分かりませんが、南米の作家にはちょっと変った家族や一族など「族」の歴史を書く非凡な才能が感じられます。 フランスに立ち向かう祖母とフランスを捨てる孫の悲運を語った作品は特にリョサらしい詳細な調査に基づいた現実的な夢物語に仕上がっていました。 

リョサは小説を書くに前に緻密なリサーチを行い特にペルーの歴史や社会を目にするうちに自ら大統領となって現状を変えようと思い立ったことがあります。 キューバ革命に感銘し実際に住んでいましたがプラハの春を契機に共産主義と決別します。 裏切りや失望感に支配された作品は居並ぶ南米の大御所でもリョサの得意分野なのだと感じました。
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by yesquire | 2008-02-10 16:03 | book
アイルランドの地味な教会で発見されたカラヴァッジョの名作「キリストの捕縛」。 偶然が重なった発見とダブリンの美術館での修理と公表のいきさつが後半に、前半で「洗礼者ヨハネ」の真贋を決定しカラバッジョ研究者達を驚かせたローマの女子学生の活躍を取り上げているのが『消えたカラヴァッジョ』
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謎の多い画家本人の物語をちりばめながら、美術史を学ぶ女子大生がいかに大多数が発見できなかったカラヴァッジョ作品の運命を明白にするかを語る前半2章はノンフィクション独特の緊迫感が伝わって読み応えがありました。 彼女を含めた学者や研究家が後半のダブリンのパートにも登場し、センセーショナルな発見と修復の過程が継続して緊張感ある物語となっていました。

本を読んだ後にカラヴァッジョの画集を見ながら感心していると最後の参考文献にちゃんと女子大生フランチェスカの論文が取り上げられており、思わずニンマリして嫁さんに報告してしまいました。

名画を扱った本はたくさんあれど、本作のように片寄のない文章で上手に仕上がったモノに出会う機会は少ないと思います。
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by yesquire | 2008-02-08 00:18 | book
娘を持ったのでイザベル・アジェンデの『パウラ、水泡(みなわ)なすもろき命』を読みました。 作者の娘がスペインで病に倒れ、死に至るまで看病した間に書き綴ったノンフィクションです。
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マドリッドでの治療や病状など行き場のない現実と合わせて、聞こえているか分からない病床の娘に自分の半生とアジェンデ一家の話を聞かせる母親の切ない語り。 苦悩、責任、希望と何といっても愛がストレートに感じられる伝記でもあります。

チリの首班を輩出したアジェンデ家の歴史、自分の母親やそれだけで小説になりそうな作者の人生を病室でパウラに語る決意をしたのは、彼女が目覚めた時に途方にくれないようにとの思いです。 特にイザベル・アジェンデの結婚から出産、離別と「精霊達の家」でベストセラー作家になるまでの過程は旅や異国での生活がおとぎ話のように描かれ面白かったです。

ラテンアメリカ作家の特徴である最初から結末やドラマの大筋を読ませて読者をグイグイ引きこむ手法は本書でも有効で、女性の視点で語られるだけに他の大御所より描写が美しく(特に出産の場面など)、より優しく感じました。

こんな人生を歩んできたアジェンデだからこそ魅力的な小説を書けるんだなーとの羨望と他の作品への期待も大きかったです。 無事だったのですが、娘が精密検査を受けた時に読んでいたので余計に心残る一作でした。
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by yesquire | 2008-01-14 21:48 | book
先日惜しくも亡くなった最後の第2次大戦時代の文豪ノーマン・メイラー。 モハメド・アリが復帰戦でジョージ・フォアマンと対峙する「キンシャサの奇跡」のドキュメンタリー『ザ・ファイト』を読みました。
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作家が文中でも述べているようにメイラーは比喩の大御所、アリの練習風景やザイール情勢をこれでもかと様々な喩えで描きます。 アリの話し方は「トタン屋根がバタつくように話し続ける」、疎遠になった友人関係は「ボクシングの試合というものは、カスタネットをたたくように偏見を打ち破る」などと、最初から細かい視点で観察しながら得意の比喩で飛ばします。

珍しい「まえがき」で生島治郎が翻訳に大変苦労したと書いてますが、メイラーは詩人のように言葉をぶっきらぼうに並べてストーリーを語る作家だと思います。 おかげで作品後半の試合の描き方はスポーツライティングの観点から傑作と思われる文章になっていました。 ジョージ・プリンプトンと隣りで観戦したそうすが、メイラーが試合前にアリとジョギングしようと提案したのは彼を意識してのことかも知れません。 

いずれにしろ時代を代表する作家が逝かれたことは寂しいかぎりです。 日本語で全集作って欲しいなー。
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by yesquire | 2007-12-15 21:51 | book

『オッペンハイマー』

「オッペンハイマー」は「原爆の父」ロバート・オッペンハイマーの伝記。 愛国心から原爆を作った彼は意外にも日本に落とされた数年後に反米活動の疑いをかけられ地位を失ってしまう。 この本は作者達の25年に及ぶリサーチによって希代の科学者の複雑なポートレイトを描ています。 科学界のカリスマだった彼は、詩を愛し、哲学を語り、授業でもパーティーでも聴衆や政治家を虜にしてしまいます。 ロスアラモスに英知を集めて一つの目的のために統率するのですが、空前絶後な殺人兵器を製作している意志は感じられません。 これはその後の政治的なナイーブさによって孤立する天才の性格でもあります。
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マンハッタン計画や原爆の被害について語られることは多いでしょうが、原爆の実験成功を頂点としたオッペンハイマー博士の特に後世を学問的成果や功績を除いて語る作品は珍しいのではないでしょうか。 FBIもが調査をした共産主義者との接触の事実を訴求され輝きを失っていく過程はショックでもありました。 ピューリッツァー賞受賞した久しぶりの長編ドキュメンタリーは時間もかかりましたが、読後に色々考えさせられる名作。

オッペンハイマーはノーベル賞を受賞した「ビューティフルマインド」のジェフ・ナッシュを迎え入れるなど科学界への貢献も多大ですが、文学など他の分野での造詣も深く、知識人との交流も多かったことに驚かされました。 原題は"American Prometheus"、プロメテウスは人間に火を与えてゼウスの怒りをかい、肝臓をハゲタカに啄ばまれ続ける拷問を受けた神です。 
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by yesquire | 2007-10-27 18:55 | book