赤坂在住の夫婦と娘と赤ちゃんによる日記と地元情報。 食事、映画、読書にアート、何でもありのブログです。 第二子誕生しました!


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アップダイクによるアフリカの仮想の国を舞台にしたドラマが『クーデタ』
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前王をクーデタで葬り去った大佐が君臨し統治した国クシュと留学先のアメリカでの生活や去就を自ら語るフィクションは、南米を舞台にしたガルシア=マルケス作品のアップダイクヴァージョン。 1978年に発表された本作では主人公エレルーや他の登場人物にも教養があり、舞台がアフリカでも巨匠の本領が発揮される場面は多くあります。

翻訳の池澤夏樹は大統領の羨望である先進国の商品名をそのまま(Coca Cola、Kelloggなど)英字で表記しており、コーランの引用と供に知られざる国のリアリティを増幅させます。 不毛の大地にもロシアの基地があり、アメリカは救援物資を押し付け、統治者はベンツを乗り回して国をまわる。 資本主義の洗礼を受けたがそれを否定する大統領は敬愛する王を処刑し、その亡霊に怯えながら身分を隠して自らの土地をさまよい、数ある愛人宅を訪れ、最後に資本主義の象徴である最新の石油精製所においてその身を貶めることに。 ラテンアメリカの作家と違い絶望や暴力ではなく、権力や独裁と物質主義の国での生活が描かれるのはある意味現代のおとぎ話とも言え、アップダイク流のエマージングカントリー物は十分読み応えのある小説でした。
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by yesquire | 2009-10-16 22:50 | book
21世紀に起きた中国との戦争後のボストンが舞台の近未来小説がアップダイクの『終焉』。 合衆国政府は無能、通貨ドルは通用せず、人々は経済的繁栄を夢見てメキシコへ脱出する以外はあまり現代と変化のない世界で、主人公の元投資銀行家(97年のこの時点では裕福な設定)の日々の生活が描かれています。
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主人公の独白で語られる物語には野生の鹿、売春婦、80年代と勘違いしているようなエネルギッシュな妻、まともな子供達と用心棒くらいしか登場しません。 アップダイクはそれでも戦後の緊張を投げてきますますが、四季の移り変わりを細かく庭の植物で描写したり、60歳代の主人公が興味を持つ分子の世界を深く語らせ読者を逃がしてくれます。 また、ガルシア‐マルケスと似ているけどアメリカらしい老いた体と性について淡々と展開する場面もあり、出版社は「SF」とアホらしい言葉を使っていますが非常に現実的な内容となっています。 

そもそも孫に会った帰りに勤めていた会社に立ち寄り、鹿を処分するために業者を雇ったり、雪の朝のフェデックスのタイヤの跡や売春婦とのやりとりなど「SF(サイエンスフィクション)」と言うよりは「SF(ストレート・フィクション)」と言った方が合うようです。 病に冒された身体でお気に入りの売春婦を哀れに探す老人、庭の草木で四季を感じながら義理の娘とのセクシャルな関係を想像する父親。 廃頽的な文章も、戦後というよりはアップダイクらしい老いと性のとらえ方を上手く表現していると思われます。 最後に撃たれた鹿が運ばれるシーンは読んでいてゾクゾクしてしまいました。
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by yesquire | 2009-07-12 14:31 | book
寡作、皮肉屋で女好きのユダヤ人重鎮作家ヘンリー・ベックのロシア東欧紀行とマリファナ体験をまとめた本が『ベック氏の奇妙な旅と女性遍歴』。 アッダイクの流れるような文章が丁寧に翻訳されており、語りかける様々な内容、すなわち美術、文壇・版元批判、この本が出版された1970年では遠かった東側の情景と女性の描写が見事に表現されています。
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個人的には上品で落ち着いたアップダイク作品が好きですが、主人公ベックは何となくせわしなくテキトー、常に批判的で愛人との会話でさえヒネクレで成立しません。 しかし南部の女子大学での講演でパニックに陥り、イギリスでは若い記者のインタビューで翻弄され、ブルガリアの女詩人に恋するなど意外にピュアな面もある可愛いおじさんでもあります。 最終章の「天国へ入る」ではあちら側で希代の文豪にアカデミーに迎えられるベック氏が描かれ、何となくいい終わり方で何故かほっとしました。
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by yesquire | 2009-05-25 22:40 | book
アップダイク初体験だった「走れウサギ」は年とってから再び読もうと考え4部作は本棚の奥に。 そうすると他の作品も敬遠しがちだったので、亡くなった今多作なノーベル賞作家をまとめて読む機会と探してみると数十冊に。
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様々な作家や評論家が死亡記事を書いているので意見するのは恥ずかしいですが、アップダイクは文学という枠を超えたカルチャーを体現する作家であり、小説、評論、エッセイ、詩、などその影響をソフトで大袈裟にならずに多岐に与え続けた人だと思います。

例えば50年後も読まれているならウサギシリーズは20世紀アメリカのミドルクラスを理解するのに最適な作品という意見は全くその通りだと思います。 美術を志してたので、情景の描写や評論などでその片鱗に遭遇することは快い体験だし、ワイルドな表現が少ないとの批判もアップダイク作品の魅力の一つと考えれば気になりません。 作者の実体験が多く語られている作品と言われる「結婚しよう」を読んでからは、その優しそうなマスクと共に小説だけでなく作家自身のファンになってしまいました。

アメリカの中流家庭をその時代とともに地味に描き続けたリアリストである巨匠が新しい大統領が誕生したわずか後に姿を消したことは実に彼らしいのではないでしょうか。 現在活躍する作家達にとって父親のような存在でもあったアップダイクが残した偉大な作品群に囲まれ、未読な本がまだあることは、もう新作がでない寂しさと共に小さな幸せも感じます。 それに翻訳されていないか廃刊になった、彼がNewyorker誌に長年発表してきた作品を今後目にすることは楽しみです。
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by yesquire | 2009-02-01 22:02 | book