赤坂在住の夫婦と娘と赤ちゃんによる日記と地元情報。 食事、映画、読書にアート、何でもありのブログです。 第二子誕生しました!


by yesquire
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タグ:アメリカ文学 ( 38 ) タグの人気記事

ドン・デリーロの『墜ちてゆく男』では40前の弁護士が9月11日貿易センタービルから「頭から爪先まで灰色の煤みたい」で「顔も服も血まみれ」になりながら前妻の玄関に現れます。持っていた他人のブリーフケースは同じくビルにいた黒人女性のもので、非常階段での経験を分かち合う深い関係に進展。 老齢で自殺した父親を持つ前妻は朗読によるセラピーで老人達の9/11に触れ、母親とその恋人と宗教感を論じます。 友人を亡くした主人公は引きこもり、「他人とのあいだの航空マイル」のような空間的基準を身につけるように。 やがてよりを戻した二人の関係にも結末が訪れます。
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爆撃実行犯がビル突撃しそこから惨憺たるビルの現場に移り変わる場面はショッキングで見事な文章で語られ、小説全体にはデリーロ得意の乾いた雰囲気が9/11後の断絶された関係、緊張感と焦燥感を漂わせます。 ノンフィクションに近い小説として発表されてもおかしくなかったデリーロによる9/11は、現場の状況描写が最小限に抑えられ、美術商、鉛筆、ポーカーなどの小道具によって事件後の登場人物の生活が表現されます。

短い文章で描いたセンタービル内部の修羅場も壮絶でしたが、主人公の子供が他の子と内緒で部屋の窓から探していたビル・ロートンという人物が実はビン・ラディンだったという下りに戦慄を感じました。

現代のアメリカ人作家で一番好きなデリーロの9/11題材の作品はまた時間のある時に再読したい1冊です。
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by yesquire | 2009-04-29 22:30 | book
現存するアメリカの作家で最も尊敬するドン・デリーロの80年代に書かれた作品が、リー・ハーヴェイ・オズワルドの物語をフィクションで仕立てた『リブラ 時の秤』。 宗教やもちろん彼の場合人種がJFK暗殺を思い出させる若い大統領が就任したので読んでみました。 事件に関与した組織にオズワルドが巻き込まれる過程と、家族やジャック・ルビーなど間接的に彼と関わる人物の詳細な描写は歴史書を読んでいる、あるいはドキュメンタリーの映画を観ているような錯覚を感じます。
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幼い時からいじめられっ子で、共産主義に目覚めてソ連に亡命、帰国しても生活は苦しく家庭を省みずに社会活動にのめり込んでいく主人公の姿を想像される感情や会話で表現するデリーロの冷徹で容赦しない文章が重く圧し掛かります。 大統領に恨みがあるわけでもなく、暗殺の計画すら考えていなかったオズワルドが熱に冒されたように壮大な策略の一部になる後半に向け、元CIAのエージェントや資料を整理する政府関係者などのサブストーリーが絶妙にからみ進行します。 暗殺、逮捕、オズワルドの葬儀で母親が語る心中へと最後に文章が加速すると同時に重苦しさも増す構成。 JFK暗殺という大きな事件を犯人の側面から描いた作品ですが、悲劇的な大げささを排除して第三者的な視線から捉えた作家の技量は恐ろしいと思いました。
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by yesquire | 2009-04-16 23:36 | book
『ザ・フィフティーズ』は15年前にハルバースタムが書いた50年代についてのノンフィクション大作。 文庫で出版の時の帯に「9/11後のアメリカは?」とありますが、それは間違いで、今読んでも50年代のアメリカの影響を考えさせられる秀作でした。
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政治だけでなくビジネスやカルチャーなど大きな範囲でその時代を捉えるために各章で一人あるいはひとつの事象を取り上げる構成。 3冊に及ぶ長編ですが、あれもこれも50年代だったのだと意外な発見もある内容でした。 ピルの発明、ホリデーインの設立、小説ペイトンプレイスやリトルロックの8人などは詳しくなかったので面白かったし、レビットタウンやマーロン・ブランド、自動車産業についてはより知識が深まりました。 

コラムニストらしくハルバースタムは新聞からTVへメディアの主役が移行する事実を様々な事象における影響で検証しています。 選挙やプレスリー、公民権運動から広告業界まで、有名なニクソンとケネディのTV討論で締めくくる最後も納得。 優秀なジャーナリストの突然の悲報からも2年、時が経つのは早いものです。
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by yesquire | 2009-03-28 11:35 | book
アップダイク初体験だった「走れウサギ」は年とってから再び読もうと考え4部作は本棚の奥に。 そうすると他の作品も敬遠しがちだったので、亡くなった今多作なノーベル賞作家をまとめて読む機会と探してみると数十冊に。
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様々な作家や評論家が死亡記事を書いているので意見するのは恥ずかしいですが、アップダイクは文学という枠を超えたカルチャーを体現する作家であり、小説、評論、エッセイ、詩、などその影響をソフトで大袈裟にならずに多岐に与え続けた人だと思います。

例えば50年後も読まれているならウサギシリーズは20世紀アメリカのミドルクラスを理解するのに最適な作品という意見は全くその通りだと思います。 美術を志してたので、情景の描写や評論などでその片鱗に遭遇することは快い体験だし、ワイルドな表現が少ないとの批判もアップダイク作品の魅力の一つと考えれば気になりません。 作者の実体験が多く語られている作品と言われる「結婚しよう」を読んでからは、その優しそうなマスクと共に小説だけでなく作家自身のファンになってしまいました。

アメリカの中流家庭をその時代とともに地味に描き続けたリアリストである巨匠が新しい大統領が誕生したわずか後に姿を消したことは実に彼らしいのではないでしょうか。 現在活躍する作家達にとって父親のような存在でもあったアップダイクが残した偉大な作品群に囲まれ、未読な本がまだあることは、もう新作がでない寂しさと共に小さな幸せも感じます。 それに翻訳されていないか廃刊になった、彼がNewyorker誌に長年発表してきた作品を今後目にすることは楽しみです。
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by yesquire | 2009-02-01 22:02 | book
カバーが原作とほとんど同じだったベテラン現代作家ジュディ・ピコーの『偽りをかさねて』は、漫画家とダンテ専門の教授夫妻とその娘の周辺に起こるショッキングな物語。 心に響く作品というよりは、事件が起きて葛藤、過去、関係や感情が大きく変化する推理小説のようでした。
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ある意味最後が気になる作品はアラスカ出身で過去を断ち切った在宅勤務の父と、生徒と不倫し家庭を省みない母を持つ娘がレイプされ自殺未遂を起こすことで始まります。 問題を抱え家庭はほぼ崩壊し、娘や妻の嘘をマンガにぶつけながら過去と対峙するのが主人公ですが、話がどんどん展開するのでその心理や感情を深く追っていく時間がありません。 アラスカへ逃亡した娘を追っていく後半は長く感じられたものの、殺人事件の真犯人と映画のようにあっという間に追いついた刑事の登場に驚かされた娯楽作品。 途中で挿入される神曲のマンガヴァージョンもちょっとわざとらしい気がしました。 
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by yesquire | 2009-01-12 21:25 | book
原作がスタインベックだったとは知らなかった映画はお正月に何度か観ていましたが、小説を読むのはもちろん初めてだった「エデンの東」。 ジェームス・ディーンが演じたキャル、登場するのは随分後半でその一族とハミルトン家の2世代に渡るドラマだったことにも驚きました。 更にはまたまた嫁さんが詳しいモントレーやパロアルトといったサンフランシスコ南部が舞台で何故か親近感を感じる始末。 「怒りの葡萄」は中学生の時よく読んだのに、「エデンの東」は軽んじていたことも反省でした。
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厳格な父に育てられた貧弱なトラスク家の長男アダムは南北戦争に出征した後放浪の旅を続け、父の死と共に実家に戻りますが、偶然飛び込んできたキャシーを連れて莫大な遺産と共にカルフォルニアへ。 一方アイルランド移民のサミュエル・ハミルトンは貧乏だがユーモアと知識を持ち、健常な妻と共に子だくさんの家庭を築きます。 荒涼とした農地で最先端の発明をし、本で知識をつけた仙人のようなサミュエルは双子出産と同時に妻に拳銃で撃たれた夫アダムを現実に引き戻し、中国系の召使リーと友情で結ばれます。 双子が成長して両家の家族にもドラマが起こって行く展開。 

長いのにあっという間に読んでしまった名作の中には、親子の葛藤や血族、戦争や宗教、経済や人種といった様々な要素がちりばめられ、多くの出来事が今の私にも問題を投げかけてきます。 「二十日鼠と人間」もそうですが、常に考えさせられるスタインベックの作品は読んだ後も重く忘れられない印象を残しました。
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by yesquire | 2008-11-17 21:55 | book
リンカーン・ライム物ではない推理小説の重鎮の最新作は、人間の表情や動きから嘘や真実を導き出すキネクシス専門家キャサリン・ダンスが主人公。 「ウォッチメーカー」で脇役ながら鮮明な印象を残した女性捜査官が地元モントレーで脱獄したカルト凶悪犯人を追い詰めます。
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『スリーピング・ドール』とは一家殺害事件でベッドで寝ていたため助かった少女のこと。 17歳に成長した彼女の証言や、共犯の女性達、FBIのカルト犯罪専門官などクセのある登場人物と、嫁さんも「懐かしい」と語る西海岸のリゾート地の情景が上手く折り混ざった秀作です。 ダンス捜査官の家族や恋愛感なども散りばめられた構成はライム物ほどの緊張感とスピードはありませんが、お約束のどんでん返しや裏切り、あっと言わせる敏腕捜査官の腕前などはシリーズ以上の充実度を感じました。

女性が多く登場するし、モントレーやカーメルなどに詳しい嫁さんは本当に楽しめた一冊でした。
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by yesquire | 2008-11-02 22:41 | book
スティーリーダンの計算された乱れないメロディが聞こえてきたチャールズ・バクスターの長編デビュー作が『初めの光が』
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ミシガンの兄妹の物語が章ごとに過去へ戻る構成、最後は幼い子供時代までさかのぼります。 ハンサムなカーディーラーの兄は高校のアイスホッケーのスター、天才児だった妹は物理学者になって不倫で出産。 全く違う環境に生活し家族を持つ二人のそれまでの日常がごく平凡に語られるのですが、何故か心配にもなり、先が読みたくなる小説でした。

動物園のライオンを「用心深く、知的ではあるが、無慈悲でもある。旅慣れた老夫人の顔だ」と表現するなど小説家たる才能が所々に光る作品でもありますが、物理や核実験の知識、ディーラーの仕事などどこで手に入れたんだと思わせる知的なディテールも見逃せません。

オープンしたばかりなのに料理も居心地も良いレストランのような佳作に今後の和訳刊行の期待が高まります。
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by yesquire | 2008-09-23 23:08 | book
恥ずかしながら初めて読んだフォークナーは荘厳かつ重厚で観る者を飲み込んでしまう中世の宗教建築のようでした。 アメリカ南部の極めて小さい地域を舞台にした一族の物語は、後世の人間が語り継ぐフォークロアのような形式で、登場人物による会話は数える程しかありません。 その会話も伝え聞いた物語の中で繰り広げられるもので、南北戦争当時の彼らの生活や事件を残された手紙や伝説で語りつくす一冊でした。
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だいたい悪役は突然登場するものですが、「アブサロム、アブサロム!」でも敵役サトペンはミシッシッピにいきなり大邸宅を構え、雑貨屋の娘と強引に結婚し男女一人ずつの子供をもうけます。 家にはほとんど帰らないが大きな存在感を残す夫、妻はあっという間に子供を残して死んでしまいます。 子供達も父親に翻弄され、妹と恋仲になった友人が異母兄弟だったことで一人息子は彼を撃ち殺し逃亡。 サトペンは召使の黒人の娘にも手を出し、父親に惨殺されてしまいます。 妻の妹が地元の学生に呪われた伝説を語る場面から始まるのですが、南部の太陽に照らされた埃っぽい建物での息詰まる会話の様子をこれでもかと細かく描写し強く印象を残します。

どちらかというと広大な大地を舞台にするラテンアメリカ文学に傾斜してしまった私にはちょっと物足りない感じもして、先にフォークナー読んでいればと後悔。 世界文学全集は一冊で二つの作品を収めたりして本の厚さを均一にしたいのか、この本も後半になると極端にひらがなが増え、ただでさえ難解な小説のページを進むスピードを落とさざるを得ませんでした。
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by yesquire | 2008-08-19 22:04 | book
アンセム・キーファーの灰色の大きなインスタレーションが頭に浮かぶピュリッツァー賞受賞作はコーマック・マッカーシーの短編とも呼べる無駄を極力そぎ落とした、ある意味ヘミングウェイな近未来フィクション。
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『ザ・ロード』はページが進むと同時に家族を思う気持ちも広がる作品でした。 焼け野原となった世紀末の地球が舞台で、大気は汚れ太陽は見えず雪が舞う道を名もない親子が殺戮と強奪が続く中進んで行きます。 生き物は人を獲物にする悪人しかおらず、食事もままならない環境で父親はひたすら息子を守ることを第一に歩みます。 もしもの時に餌食にならないよう自殺する方法を教えている事がわかる場面ではこちらの胸が痛くなります。

前作でも研ぎ澄まされた刃物のような文章で悪と善を描いた作者が更に硬度を増した短い言葉で語る作品は、想像力が膨らむ分だけ希望も将来もない状況が心に無情に鋭利な角度で刺さる気がします。 食べ物を探した家の地下にいた全裸で足を切断された男と助けを求める声、焼かれて食べられた赤ん坊などカニバリズムがさらに平和な現代に生きる我々に鈍器で殴られるような感覚を与えますが、偶然見つけたシェルターで久しぶりに風呂に入りコーヒーを沸かす場面が際立って幸福に見えたりもします。

病に冒され死を待つ父と世界が崩壊した後に生まれた子の間で極端に短い会話で表現される親子の愛情、数ページか数段落で収まってしまう事件や出来事、想像を超えた末期の世界をマッカーシー色で極めた小説は現代アメリカ文学の最優良作の一つだと思いました。
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by yesquire | 2008-07-16 22:18 | book