赤坂在住の夫婦と娘と赤ちゃんによる日記と地元情報。 食事、映画、読書にアート、何でもありのブログです。 第二子誕生しました!


by yesquire
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カテゴリ:book( 53 )

いつのまにか出版されるのを待つシリーズの一つとなってしまったフロスト警部シリーズの最新作が『フロスト気質』。 ふざけたおっさん警部フロストのおとぼけぶりと洞察力のある捜査、親切で出世には興味ない主人公とポリティカルな同僚、これでもかと続く奇妙な事件、そこまでやるの的な推理小説は今回も読みどころ満載でした。
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嫁さんも同感の「ちょっと長かった」今回は連続する小児犯罪、殺人事件と窃盗などの事件が重なり、寝不足の敏腕警部の寝ざめを更に悪くします。 そこへ娘がひき逃げされた事件を担当したフロストに恨みを持つ元同僚が配属されるという不幸続き。 解決できなかった捜査方法に疑問を持つ父親とフロストが対立したまま難事件に立ち向かいます。

前半でありったけの事件をたたみかけ、ハラハラさせていつの間にか解決するという作家の手法は見事で、嫁さんも育児の合間にあっという間に読んでしまいました。
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by yesquire | 2008-09-11 22:09 | book
恥ずかしながら初めて読んだフォークナーは荘厳かつ重厚で観る者を飲み込んでしまう中世の宗教建築のようでした。 アメリカ南部の極めて小さい地域を舞台にした一族の物語は、後世の人間が語り継ぐフォークロアのような形式で、登場人物による会話は数える程しかありません。 その会話も伝え聞いた物語の中で繰り広げられるもので、南北戦争当時の彼らの生活や事件を残された手紙や伝説で語りつくす一冊でした。
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だいたい悪役は突然登場するものですが、「アブサロム、アブサロム!」でも敵役サトペンはミシッシッピにいきなり大邸宅を構え、雑貨屋の娘と強引に結婚し男女一人ずつの子供をもうけます。 家にはほとんど帰らないが大きな存在感を残す夫、妻はあっという間に子供を残して死んでしまいます。 子供達も父親に翻弄され、妹と恋仲になった友人が異母兄弟だったことで一人息子は彼を撃ち殺し逃亡。 サトペンは召使の黒人の娘にも手を出し、父親に惨殺されてしまいます。 妻の妹が地元の学生に呪われた伝説を語る場面から始まるのですが、南部の太陽に照らされた埃っぽい建物での息詰まる会話の様子をこれでもかと細かく描写し強く印象を残します。

どちらかというと広大な大地を舞台にするラテンアメリカ文学に傾斜してしまった私にはちょっと物足りない感じもして、先にフォークナー読んでいればと後悔。 世界文学全集は一冊で二つの作品を収めたりして本の厚さを均一にしたいのか、この本も後半になると極端にひらがなが増え、ただでさえ難解な小説のページを進むスピードを落とさざるを得ませんでした。
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by yesquire | 2008-08-19 22:04 | book
アンセム・キーファーの灰色の大きなインスタレーションが頭に浮かぶピュリッツァー賞受賞作はコーマック・マッカーシーの短編とも呼べる無駄を極力そぎ落とした、ある意味ヘミングウェイな近未来フィクション。
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『ザ・ロード』はページが進むと同時に家族を思う気持ちも広がる作品でした。 焼け野原となった世紀末の地球が舞台で、大気は汚れ太陽は見えず雪が舞う道を名もない親子が殺戮と強奪が続く中進んで行きます。 生き物は人を獲物にする悪人しかおらず、食事もままならない環境で父親はひたすら息子を守ることを第一に歩みます。 もしもの時に餌食にならないよう自殺する方法を教えている事がわかる場面ではこちらの胸が痛くなります。

前作でも研ぎ澄まされた刃物のような文章で悪と善を描いた作者が更に硬度を増した短い言葉で語る作品は、想像力が膨らむ分だけ希望も将来もない状況が心に無情に鋭利な角度で刺さる気がします。 食べ物を探した家の地下にいた全裸で足を切断された男と助けを求める声、焼かれて食べられた赤ん坊などカニバリズムがさらに平和な現代に生きる我々に鈍器で殴られるような感覚を与えますが、偶然見つけたシェルターで久しぶりに風呂に入りコーヒーを沸かす場面が際立って幸福に見えたりもします。

病に冒され死を待つ父と世界が崩壊した後に生まれた子の間で極端に短い会話で表現される親子の愛情、数ページか数段落で収まってしまう事件や出来事、想像を超えた末期の世界をマッカーシー色で極めた小説は現代アメリカ文学の最優良作の一つだと思いました。
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by yesquire | 2008-07-16 22:18 | book
「飲む・打つ・買うは福利厚生」という帯に魅かれて手に取った証券マンが語る自称ノンフィクションのハチャメチャ小説。 途中からありえない取引などがあるので「ん?」と思いますが、80年代の業界の人間なら納得するような記述もあり、それなりに楽しめた一冊でした。
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『ウォール街狂乱日記』の主人公は若くして当時の法律スレスレ取引で成功、ビリオネアとなってモデルの若妻、高級車とヘリとと別荘とボート、コールガール、そしてドラッグとあらゆるものを手に入れます。 マネーロンダリングや金融当局の検査、イケイケの社内や出産シーンなど実体験を(たぶん)基にしたドキュメンタリーでもありますが、映画化を意識して過激になりすぎのシーンも散見されるのでフィクションとして読むと面白かったです。

多くのウォール街モノ映画や小説と同じく、日本語にない金融用語やアメリカ独特の商慣習などの翻訳はあやふやになります。 スピルバーグ映画化と書いてあったので映像で見たほうが良いお話?
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by yesquire | 2008-06-01 08:21 | book
ダウン症だった双子の一人を死産と妻に伝えた医師と、施設に入れるよう要請されるも自ら育てる決断をした看護婦とそれぞれの家族の話が『メモリー・キーパーの娘』

妻は喪失感に悩み医師である夫と距離を置き、無事育った息子は進路で父と対立、主人公の幸せそうに見える家庭は崩壊。 看護婦は苦労を重ねながら自律し発育の遅い「人の子」を育て、愛情に恵まれた家庭と良き理解者に囲まれた幸せなファミリーを築きます。 

妹を早く亡くした経験から娘を捨てた医師ですが、内緒で仕送りをして責任感から逃れようと苦悩します。 一方で出産の場面にいた看護婦は実母に対して罪悪感を持ちながら他人の子を育てます。 前半の混沌と比較すると意外にも最後はあっさり結末を迎える物語は好感が持てました。
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デビュー作が大きな評価を呼んだルーキーの作品なので細かいことは気にせず読みました。 ベテランの匠な技術や読者との駆け引きが無いのでかえって設定と構成でシンプルに読む者を引きこむ小説。 メモリー・キーパーとは趣味が高じてプロの写真家となる医師のこと。
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by yesquire | 2008-03-29 22:15 | book
最近読んだ南米の作家達の秀作はすべてノンフィクションばかりです。 『楽園への道』は理想を追及し自らを犠牲にして労働者運動を行うフローラと、その孫であり芸術を異国に求めてさまようゴーギャンの物語。
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労働者を団結させようと孤軍奮闘している祖母の姿は女性への偏見や労働組織に対する無知と保守的な信仰が渦巻く1850年代のフランスにおいて全く絶望的で無謀に描かれます。 同じように安定と地位と家族を捨て南の島に移住した孫の乱れた生活と性病に侵された身体での芸術活動も自暴自棄かつ絶望的に語られます。祖母は若気の至りで嫁いだ後悔と夫からの逃亡、対比される孫は親友ゴッホへの裏切りと自殺に対する責任に行く先で付きまとわられ苦悩します。

題材に事欠かないからか特異な地理と歴史が理由か分かりませんが、南米の作家にはちょっと変った家族や一族など「族」の歴史を書く非凡な才能が感じられます。 フランスに立ち向かう祖母とフランスを捨てる孫の悲運を語った作品は特にリョサらしい詳細な調査に基づいた現実的な夢物語に仕上がっていました。 

リョサは小説を書くに前に緻密なリサーチを行い特にペルーの歴史や社会を目にするうちに自ら大統領となって現状を変えようと思い立ったことがあります。 キューバ革命に感銘し実際に住んでいましたがプラハの春を契機に共産主義と決別します。 裏切りや失望感に支配された作品は居並ぶ南米の大御所でもリョサの得意分野なのだと感じました。
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by yesquire | 2008-02-10 16:03 | book
アイルランドの地味な教会で発見されたカラヴァッジョの名作「キリストの捕縛」。 偶然が重なった発見とダブリンの美術館での修理と公表のいきさつが後半に、前半で「洗礼者ヨハネ」の真贋を決定しカラバッジョ研究者達を驚かせたローマの女子学生の活躍を取り上げているのが『消えたカラヴァッジョ』
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謎の多い画家本人の物語をちりばめながら、美術史を学ぶ女子大生がいかに大多数が発見できなかったカラヴァッジョ作品の運命を明白にするかを語る前半2章はノンフィクション独特の緊迫感が伝わって読み応えがありました。 彼女を含めた学者や研究家が後半のダブリンのパートにも登場し、センセーショナルな発見と修復の過程が継続して緊張感ある物語となっていました。

本を読んだ後にカラヴァッジョの画集を見ながら感心していると最後の参考文献にちゃんと女子大生フランチェスカの論文が取り上げられており、思わずニンマリして嫁さんに報告してしまいました。

名画を扱った本はたくさんあれど、本作のように片寄のない文章で上手に仕上がったモノに出会う機会は少ないと思います。
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by yesquire | 2008-02-08 00:18 | book
訳者である村上春樹による解説が面白かったのがレイモンド・チャンドラー作『ロング・グッドバイ』。 旧訳では省略されていた詳細な描写が新訳では翻訳家による思い入れから復活、本の厚さも手伝って飛ばしてしまおうかと思った箇所が確かにありました。 余計とも思われるチャンドラー特有のディテイルを村上春樹は「偉大なる寄り道」としてあえて強調しています。
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物語は探偵フィリップ・マーロウがロサンジェルスの金持ちと偶然知り合いになる場面で始まります。 富豪の娘と結婚したその男が妻を殺害しメキシコへ逃亡、マフィアや義父も絡んだ状況で探偵が逮捕されると突然その男が自殺。 そこから話は急展開し、謎の美人作家婦人や殺された女の姉が登場、マーロウはますます混沌とする闇の世界で一人孤立しながら事件を解決してゆきます。

村上春樹を含めた作家や評論家が言うとおり、本作品は探偵物ではなくフィクションとして十分読む価値のある小説だと思いました。 もちろんミステリーとしてのヒネリも素晴らしいですが、60年代のモノクロ映画を思い出させるセリフと描写に感心しました。
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by yesquire | 2008-01-25 22:16 | book
翻訳に青山南を指名した出版社と見事起用に応えた本人が素晴らしいのがケルアックの新訳『オン・ザ・ロード』でした。旧訳「路上」は初めて手にした時がまだ若く、ビート・ジェネレーションに違和感もあり非常に読み難かった記憶があります。
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「オン・ザ・ロード」はアメリカを文字通りぶっとばして東から西へ信じられない速さで移動する主人公達のスピード感と若さが生々しく描かれ、考えることなくあっという間に読める(読んだほうがいい)小説に仕上がっていました。 取り換えるのが面倒なので紙をつなぎ合わせてタイプしていたという伝説が残る一作なので作者と同じテンポを持つことも重要かと思います。

1950年代のアメリカ大陸を追い立てられるように西へTripする(Travelでなく)主人公と友人達の物語は同世代の若者に何度も読まれ、深く影響を与え研究もされてきました。 当時はセックスの描写に気を使っていたため多少ウブな内容もありますが、「いいねっ!」(”Yes!”とか”Yaas!”)の感嘆詞で占められる会話やメキシコも含めた各地の人々の描写に若い作者の生き生きとした感性が読みとれます。

昨年本国ではOn The Road The Original Schrollという「完全版」が出版されちょっとブームになっていたようです。
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by yesquire | 2008-01-21 00:02 | book
娘を持ったのでイザベル・アジェンデの『パウラ、水泡(みなわ)なすもろき命』を読みました。 作者の娘がスペインで病に倒れ、死に至るまで看病した間に書き綴ったノンフィクションです。
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マドリッドでの治療や病状など行き場のない現実と合わせて、聞こえているか分からない病床の娘に自分の半生とアジェンデ一家の話を聞かせる母親の切ない語り。 苦悩、責任、希望と何といっても愛がストレートに感じられる伝記でもあります。

チリの首班を輩出したアジェンデ家の歴史、自分の母親やそれだけで小説になりそうな作者の人生を病室でパウラに語る決意をしたのは、彼女が目覚めた時に途方にくれないようにとの思いです。 特にイザベル・アジェンデの結婚から出産、離別と「精霊達の家」でベストセラー作家になるまでの過程は旅や異国での生活がおとぎ話のように描かれ面白かったです。

ラテンアメリカ作家の特徴である最初から結末やドラマの大筋を読ませて読者をグイグイ引きこむ手法は本書でも有効で、女性の視点で語られるだけに他の大御所より描写が美しく(特に出産の場面など)、より優しく感じました。

こんな人生を歩んできたアジェンデだからこそ魅力的な小説を書けるんだなーとの羨望と他の作品への期待も大きかったです。 無事だったのですが、娘が精密検査を受けた時に読んでいたので余計に心残る一作でした。
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by yesquire | 2008-01-14 21:48 | book