『ベック氏の奇妙な旅と女性遍歴』 ジョン・アップダイク
2009年 05月 25日
寡作、皮肉屋で女好きのユダヤ人重鎮作家ヘンリー・ベックのロシア東欧紀行とマリファナ体験をまとめた本が『ベック氏の奇妙な旅と女性遍歴』。 アッダイクの流れるような文章が丁寧に翻訳されており、語りかける様々な内容、すなわち美術、文壇・版元批判、この本が出版された1970年では遠かった東側の情景と女性の描写が見事に表現されています。 個人的には上品で落ち着いたアップダイク作品が好きですが、主人公ベックは何となくせわしなくテキトー、常に批判的で愛人との会話でさえヒネクレで成立しません。 しかし南部の女子大学での講演でパニックに陥り、イギリスでは若い記者のインタビューで翻弄され、ブルガリアの女詩人に恋するなど意外にピュアな面もある可愛いおじさんでもあります。 最終章の「天国へ入る」ではあちら側で希代の文豪にアカデミーに迎えられるベック氏が描かれ、何となくいい終わり方で何故かほっとしました。
by yesquire
| 2009-05-25 22:40
| book